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[欄外コラム(5)] 幻のスタジオ録音ファーストLP | [欄外コラム] のINDEXへ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
一般にGSの場合、デビューからシングルが2枚続けてヒットすれば、LPの企画(と予算)が生まれたようだ。 後のアイドル歌手のLPもそうだったように、その内容は、リリース済みの2枚のシングルAB面の4曲+どこからか持ってきたオリジナル曲、または3枚目のシングルAB面の2曲+外国曲やヒット曲のカヴァー6曲の全12曲(これが当時のLPの基本的収録曲数)で、3枚目のシングル発売と同時期か、ちょっと後にリリースというわけである。 当初はタイガースのファーストLPもこうした路線に沿った企画だったらしく、外国曲をカヴァーしたスタジオ録音が残っている。 2枚目のシングル「シーサイド・バウンド」のヒットを確認した後の時期に、3枚目のシングル「モナリザの微笑」等のレコーディングに先だって行なわれた。 後にCD 『LEGEND OF THE TIGERS』等で発表された音源とポリドールの録音日誌から、このLPの内容を想像してみると…。 まず、タイトルはストレートに『ザ・タイガース・ファースト・アルバム』で、ジャケット写真は『オン・ステージ』の付録ポートレートのイメージか。 もちろん8ページのブックレット付。 発売日は「モナリザの微笑」から2週間ほど後の9月5日あたり(もちろん、8月22日の初リサイタルと絡めて宣伝して、特典付きで予約販売もするのです)。 内容は、1枚目と2枚目のシングルAB面の4曲+シングル・セッション時のアウトテイク曲でリスナーにとっては新曲の「白いブーツの女の子」「ノー・モア・ラブ」+新曲「可愛いアニタ」+外国曲のカヴァー5曲で全12曲というわけ。 最新シングル「モナリザの微笑」のAB面2曲は出したばかりだから未収録とすると、曲が1曲足りないので、目先を変えて、他の曲とは作家の異なる「可愛いアニタ」を急いで追加録音した、とすれば、[欄外コラム(3)] の疑問は解決するのだが…。(⇒[欄外コラム(3)] 参照/今のページにはブラウザー自体の「戻る」ボタンで) ついでながら、曲順はこんな感じでしょうか。
ちなみに、タイトル後に*印のある曲は音源が発掘されていませんが、ポリドールの録音日誌にはタイム表記がされている。 それを検討すると、まず1967年6月13日に録音された「ミッシェル」はオリジナルのビートルズ・ヴァージョンより2〜30秒も長い。 かなりテンポを落とした演奏だったのか、リフレインを増やしたのか(表記が間違っているだけだったりして)。 いずれにしても、ビート系ナンバーで勢いよくスタートして2曲続けた後は、スローなバラードでチェンジ・オブ・ペースというつもり。 「ノー・モア・ラブ」はシングル第3弾「モナリザの微笑/真赤なジャケット」のセッション時に用意されたもう1曲で、同年6月26日に録音されているが、未発表のままで内容はまったく不明。 一応タイトルのイメージから失恋バラードと読んで(すぎやまこういち作曲のはずだから、後に明治製菓のプレゼント・レコードに収録された「夢のファンタジア」みたいな感じかも)、アップ・テンポな曲の間に挟んでみましたが。 こうしてLPのB面は、まずリスナーにとっての新曲が3曲続くのです。 同年6月12日に録音された「マシュ・ケ・ナダ」のタイムは録音日誌には2分00秒と書いてあるように見えるけれど、1回書いた「タイガースのテーマ」を線を引いて消して「マシュ・ケ・ナダ」としてあるし、現存する「タイガースのテーマ」がほぼその時間であることから、「タイガースのテーマ」の時間表記がそのまま残ったものでしょう(翌13日に録音された「タイガースのテーマ」のタイム表記は空欄)。 「マシュ・ケ・ナダ」は当然ながら、当時大ヒットしたセルジオ・メンデスとブラジル'66のヴァージョンを参考にしたと思われるから、演奏時間はそれと同じ位としました(もっとも、これらのカヴァー曲の中で、この曲調だけは違和感あり)。 さて、「ローリング・ストーンズ・メドレー」、実は録音日誌には「ローリング・ストーン」と書かれているだけ。 しかしながら、5分という長いタイム表記からしてストーンズのメドレー曲ではないかと思われるわけですが、内容はLP『オン・ステージ』でのライヴ向きのストーンズ・メドレーではないはず。 当時のタイガースがライヴで演奏していたナンバーからバラード系とビート系の組み合わせで、1曲は岸部修三のリード・ヴォーカルだったような気がする。 どうせ想像だから、この際「テル・ミー」(リード・ヴォーカルは岸部修三)と「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」のゴールデン・カップリング(GS最盛期の1968年2月20日に日本でのみ再発売されたストーンズのシングルAB面と同じ、右下の写真参照)としましょうか。 再結成タイガースで岸部修三が「テル・ミー」を唄ったのは、この曲がレコードとして残っていなかったため、なんて。 そうとすれば、2曲をフル演奏すると時間がハミ出すので、「テル・ミー」は間奏をカットした日本盤シングル・ヴァージョンを基に(再結成タイガースの『A-LIVE』でのヴァージョンも同様)、さらに最後のリフレイン部分を短めにして「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」につないだ、と勝手に断定。 これで、各面の演奏時間を合計してみると、ほら、いかにも当時のLPらしいトータル・タイムになるではありませんか。 (ちなみに、当方では上記曲順のテープを編集して、聴いてみました。 タイガースの録音が未発表の「ミッシェル」「マシュ・ケ・ナダ」は、オリジナル・アーティストでは雰囲気が出ないので、一応ブルー・コメッツのレコードから拝借、「ミッシェル」の方はスパイダースでも可ですが、いずれにしても時間を合わせるために多少ピッチを落として録音、「マシュ・ケ・ナダ」のエンディングは短めに。 「ノー・モア・ラブ」は、この際「夢のファンタジア」で代用。 「ストーンズ・メドレー」の「テル・ミー」に関しては、『A-LIVE』から。 結果はまずまずですので、その気がある方はお試しください) と、ちょっと遊んでしまいましたが、こうしたコンセプトで構成されていたとしたら、当たらずとも遠からずの内容だったことは間違いありません。 しかし、(1)ほぼこうした内容の曲がレコーディングされていたにもかかわらず、これをオクラ入りにした理由、(2)同じことのようですが、内容もさることながら、むしろ企業にとっては切実なはずの、すでに掛けていた経費をドブに捨てた理由、(3)その替わりにライヴ盤という形式でリリースした理由、以上を知りたいものです。 確かに結果論としては、こうしたよくある寄せ集め的なアルバムではなく、タイガースが残したスタジオ録音アルバムは『ヒューマン・ルネッサンス』も『自由と憧れと友情』も全曲オリジナル曲(メンバーの自作ばかりではないにしても)で構成されていたことが他のGSのレコード・リリースからタイガースを際立たせているわけですが、最初からそう決めていたのではなく、とにかくこれらの曲が実際に録音されているのですから、その後で方針が変わったはずです。 内容的にも、残されている音源を聞く限りでは当時の水準は充分にクリアしていると思われますので、出来が悪いからオクラ入りにしたとは考えられません。 また、タイガースの魅力は生のステージにもあったので、それをレコードにしてリリースすると考えたにしても、スタジオ録音盤もライヴ盤も両方とも出せばいいではないですか。 売り上げは間違いなく上がるはずですし、すでにお金を出費しているスタジオ音源をオクラにする理由とは思えません。 なお、奇しくも、このライヴ盤がリリースされた日に、長髪GSがNHKに出演できなくなった原因と言われる、タイガースのコンサート会場でのファンの負傷事故が発生していますが、この事故でGSのコンサートが簡単に開催できなくなったので、その代替としてライヴ盤をリリースすることにしたというならば、一応納得できます。 でも、もちろん、そういう順番ではありません。 何かアクシデントがあっての苦肉の策だったのか、それとも長期的展望に立っての大胆な方針変換だったのか、考えれば考えるほど理由は分からなくなるにしても、とにかく実際にはありきたりのスタジオ録音のファーストLPは世に出ず、ライヴ・アルバムがリリースされるという、あまり例の無い形になりました。 (ただし、必ずしも上記の外国曲がファーストLP用の録音ではない可能性もあります。 例えば4〜5曲入りEPをリリースするつもりだったとか…。 もし、そうだとしたらこの欄自体が意味のないものになりますが、それでもファーストLPとして何故ライヴ盤をリリースしたかの謎は残るわけです) そういえば、かのビートルズのコンセプト・アルバムの最高傑作ということになっている『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(右の写真)が欧米では同年の6月初めにリリース、日本盤も7月に発売されています。 まさにこの時期なのですが、ビートルズがこのアルバムで示した本質を、タイガースのメンバーまたはスタッフがリアルタイムで直ちに理解し、それに衝撃を受けての大幅な方針転換だったならば、実に見事ではあります…。 (蛇足ながら付け加えると、人気抜群のビートルズも 『サージェント・ペパーズ』も、リアルタイムでは今以上には理解も評価もされていなかったというのが筆者の実感。 今では評価され過ぎだけど) |
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