Atlanta Rhythm Section
何と元はソフト・ロック・バンド。 でも、なめたらいかん。
南部魂バリバリ、ライヴもすごい、素晴らしき職人バンド。
アトランタ出身のサザン・ロック・バンドとして語られるAtlanta Rhythm Section(ARS)ですが、かなり特異なバンドではないでしょうか。
各メンバーは、ARS結成前に様々なセッションに参加していたり、他のバンドでの経歴があります。 それも下積みと言うには本格的でした。 またARS結成後も、MCA(デビュー時のレコード会社)との契約金を基に自らのスタジオ「スタジオ・ワン」を設立し、ARSと平行して、様々なスタジオ・ワークをこなすという、大変ユニークな活動をしています。
スタジオ・ミュージシャンは、相手の特性に合った仕事をし、常に時代の流れ、音に気を配ることを要求されます。 ARSの諸作に見られるバランス感覚は、他のバンドのように、自らの個性や音を自分達の中で摸索し、つかみ取るというものとは明らかに違った、こうした職人的なポップス・クリエイター、良質な音楽クリエイター的姿勢・視点から生まれたものであると言えます。
ARSの、いわゆるロック・バンドらしさが希薄な原因は、ここにあるように思えます。
また、J.R.Cobbをはじめとするバンドのメンバーと、大半の曲を書きながらもプロデューサーという位置にいるBuddy Buie。 彼とバンドの関係も、あくまでも外側からの視点を持ちつづける事によって、バンド自らの方向性、音に迷いのないように心がけるという、職人的な強いこだわりを感じさせます。
ソフト・ロック・ファンに評価の高いグループに、クラシックスIVがあります。 「Traces」「Spooky」「Stormy」という美しい名曲をこの世に残しているのですが、実はこれらの曲をはじめとする多くの曲を書いているのが、BuieとCobbの二人です。 またバックには後のARSのメンバーも参加しており、実質上ARSの前身バンドと言えます。 もう一つの前身バンド、キャンディメンにもBuieは曲作りで参加しており、BuieとのARSの連中の位置関係は、バンド結成前からのものであった事がよくわかります。
このように、60年代における彼らは、それぞれキャンディメンであり、クラシックスIVであり、アトランタを拠点とするスタジオ・ミュージシャンでしたが、そういった中でのクラシックスIVの立て続けのヒットにより、南部のソウル・ミュージックの顔メンフィス・サウンドのように、アトランタ・サウンドと呼ばれる事もあったそうです。
そして70年代、アメリカン・ロックの南部への時代の流れ・勢いを感じた彼らは自らの結束を固め、より自分達自身を、そして音楽文化後進地域と思われていた南部の地元意識を強く押し出したプロジェクトとしてARSを結成したのです。
さて、こういったスタジオ・ミュージシャンの要素の強いバンドは必然的にライヴがおざなりに、弱いものになりがちです。 しかし、彼らはデビュー時のMCA時代こそライヴ活動は少なかったものの、ポリドールに移籍してからは積極的にライヴ活動を行い、熱くパワフルなパフォーマーとしての腕をみがき、地道に着実にファンを増やしていきました。 良質な音を作り出すことにこだわるスタジオでの職人気質とライヴ・パフォーマーとしての実力の両面を兼ね備えた彼らは、まさにアメリカ一流のバンドと言えるでしょう。
しかしながら、どうも日本での評価では今一つです。 残念ながら全盛期に来日が実現しておらず、ようやくその素晴らしさが伝わるライヴ・アルバムが出たのも、サザン・ロック・シーンが衰退した後の80年になってからの事であったことが一因でしょう。 さらに大きな原因と思われるのは、バンド名やジャケット、メンバーのヴィジュアルが南部テイストあふれる田舎臭さぷんぷんで、彼らの音の洗練さとあまりにギャップのある事です。
ではなぜ、音においてはセンスあるものを作り出したのに、パッケージングは田舎なものにこだわったのでしょうか。 それは、自分達が南部人であるということを強く主張したかったのだと思います。 田舎人とは思えない洗練されたポップ感覚あふれる音楽を自分達はやっているのだと、そういった音楽を培って演奏している人間が南部にもいるんだぞと、そう主張しているように思えます。 そんな辺境の意地のようなセンス自体がまた田舎臭くて良いのですが…。
彼らもまた愛すべきサザン・バンド(南部魂楽団)なのです。
アルバム紹介
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